- AI O ITAMU UTA
- 闇のドッペル・ゲンゲル
- ジグラットの魔女狩り
- M.U.R.A.
- そしてストリート・カーはゆっくり走る
- MUTANT PUBへようこそ
- 試験官の中の嵐
- 死ぬまで踊りつづけて
- ハルマケドン
私が購入して初めての音楽を聴くときには、まず歌詞カードを読むことから始める。「死ぬまで踊り続けて」も歌詞カードから読み始めた。すべての歌に詞がついていることと、詞の世界をなんとなく頭に入れて、どんな音が出てくるのかわくわくしながら、音楽を聴き始める。
たしかに”AI O ITAMU UTA”には歌詞があった。ノイジーな音がキリキリと頭の中で響き渡るけれど、いつになっても歌詞が歌われることが無かった。歌詞があるのに、歌われない。いや歌ってはいるが、言葉になっていないであろうノイズである。右チャンネルからはサックスが左チャンネルからはギターが、ルールなんて無いかのように弾きまくられている。流麗なソロではない。苦しくて苦しくて、閉じこめれた場所から出てこようとするような音だ。徐々にビートがはっきりし出すけれど、混乱はより強まってくる。
強いビートに続き、”闇のドッペル・ゲンゲル”が始まる。やっと歌を聞くことが出来て、やっとロックらしい曲に聞こえる。しかし発せられた歌は聞き手を突き放す、扇情的な声だ。印象的なブレイクが続くが、そこで聞き手を安らげるようなことはさせない。聞き手の予想を超える音を出し続けて、とてつもない緊張感を強いる音、そして歌詞だ。ベースとドラムがしっかりとリズムをキープし、そこにギターのカッティングで曲を固める。その上に、フリーキーなギターとサックス、そしてわかりやすくも、わかりにくいボーカルが乗せられるプロスティチュートらしい曲だ。
投げつけられたボーカルで曲が終わり、ここまではなかった浮遊感のあるギターに導かれて、少しずつ音が重なり、ドラムとベースがタイトなリズムを作り出す。とくにベースは”M.U.R.A.”のテーマとなるラインで、非常にかっこいい。なぜ1980年に連合赤軍の曲なのか。不思議な気もする。歌詞を読む限り、連合赤軍を批判しているようにも取れるが、タイトルがMy Uninted Red Armyの略でもある。一般受けしそうにない題材を覚えやすいメロディで歌う。これもプロスティチュートの特徴だ。
そしてB面へ。
一転して”そしてストリート・カーはゆっくり走る”。三拍子の曲。ボーカルにエフェクトがかけられたり、外されたり、と聞き手は安心する間がない。最初から最後までペースが変わらず演奏されるが、突然テンポが速くなり、混沌としたエンディングを迎える。
後退青年でも録音された”MUTANT PUBへようこそ”は非常にパンクに似ている。しかしそれは単にスタイルが似ているだけで有り、いわゆる1970年代後半のパンクとは全く違う。投げつけられるボーカル。間奏はリードギター、リズムギター、サックスが入り乱れて、最高潮に盛り上がる。ライブで演奏されたら間違いなくハイライトナンバーとなるだろう。残念ながら私はライブでは聴いたことが無い。
“試験官の中の嵐”。リードギター、サックスが自由に弾きまくっているなか、”M.U.R.A.”と同様にベースがテーマとなるラインを弾き続ける。サビでボーカルとコールアンドレスポンスの形でギターとサックスが呼応するところなど、しっかりと曲の構成を固めてからバンドとして弾いていることをうかがわせる。
それまでのフリーキーでノイズの嵐のようなサックスばかりだったので、非常にわかりやすく感じてしまうサックスのイントロが奏でられる”死ぬまで踊りつづけて”。あくまで比較論であって、それはポップスとは一線どころか対極にある音楽であることは間違いない。すこし不気味なリフが登場し、今まで以上に力強く”死ぬまで踊りつづけて”と歌われる。生死のテーマが多かったアルバムのタイトルが””死ぬまで踊りつづけて”とは…。先の見えない人生を暗喩しているように見える。
最後はノイズの嵐で終了。まさに”ハルマケドン”。
死ぬまで踊り続けて テストプレス
オークションにて入手。吉野大作本人も存在を知らなかったもの。未聴なので、発売されたレコードと違うがあるかは不明。その後、本人に譲渡。
リマスターによせて 2010年06月26日 記
20年ぶりの再発です。むしろ20年前にCD化されていたことが驚くことなのかも知れません。1981年に発売されて29年たったいま、このアルバムがリマスターされCDとして再発されることに喜びを禁じ得ません。
私がこのCDを購入したのが1993年。廃盤寸前だったのか、なかなか見つけることが出来ずにいろいろなCDショップで探したのを今でも良く覚えています。最初に吉野大作の音楽に触れたのが、プロステのセカンド「後ろ姿の素敵な僕たち」でした。1曲目の”FOZZDELIC FARM”のかっこよさにやられてしまい、やっとの思いで入手した「死ぬまで踊り続けて」を聴いたときには「後ろ姿の素敵な僕たち」とはまったく違うオープニングにやられてしまいました。
今と違って幼かった私には刺激が強すぎる音楽でした。いや、音楽という言葉では表せないほどの強烈な音像です。当時のグランジやオルタナティブ・ロックなどが一瞬で色あせた瞬間でもありました。
必死にライブ情報を探し出し、渋谷のLa.mamaで初めて見たライブ、横浜のグッピーで見たライブ。アルバムに収録されている以上の激しく攻撃的な音に打ちのめされました。
その後も吉野大作を聞き続け、手に入れられるアルバムは全て集め、プロステ以外の吉野大作のライブにも見に行くようになるに連れ、湧いてきた疑問を一度本人に尋ねたことがあります。
「プロステの音楽は何を目指したものだったのですか」と。
答えは明快でした。
「オノヨーコだよ。彼女の声をSaxで表したかった。」
今回発売されたCDに答えは本人により書かれたエッセイにより詳細にてあります。このエッセイはプロステの歴史が書かれ、非常に興味深いものです。このエッセイを読むだけでも2枚目、いや3枚目の「死ぬまで踊り続けて」を入手する理由になります。
リマスターは音圧が派手にあがらずに非常にオリジナルを尊重したものになっていると思います。攻撃的なギター、サックス、重いベースとドラムが大きなうねりとなって聞こえる良い音です。あまり語られることが無いですが、吉野大作本人の特徴のあるギターカッティングも聞き所の一つです。独特の柔らかいタッチのコードカッティングは病みつきになります。是非注意して聞いてみて下さい。
彼の音楽を知って20年近くになります。私の中ではPaul McCartneyにも比肩するアーティストです。Paul McCartneyと同様に作り出す音は幅広く、そのなかの一つの音ですが、唯一無二の音が収録されているこのアルバムは今後も語り続けられる、いや語り続けないといけないものです。
個人的な思いですが、Paul McCartneyと吉野大作の音楽が有る限り、こんなに幸せなコトはありません。
音がある限り、踊り続けていくことが出来ます。
まさに「死ぬまで踊り続けて」です。
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